中國園林情報

「園林建築」の世界〔3〕/「亭」

園林建築中で、最も数多い名称がこの亭です。通常「亭」は比較的小規模の建物に対して名付けられることが多く、それに対して「小亭」と称することもあります。ただしその一部には例外もあって、かなり大きな建築に名付けられた亭もあるようです。様式としては、四角亭、六角亭が最も多く、大規模な構造になる八角亭は稀と言えるでしょう。

蘇州名園として名高い「拙政園」は、面積が広いだけに多数の特色ある建物が楽しめますが、全園中に現在15棟もの「・・・亭」と名付けられた実例が存在しています。「亭」の特色としては、園の中心や、築山上の遠景として配置されている例が多いようです。ここでは蘇州名園中から厳選した7棟の「亭」を紹介しておくことにしました。

拙政園/荷風四面亭(かふうしめんてい)

「中園」の池泉中央部にあり、四方から蓮の香りがただよう意味

「中園」の池泉中央部にあり、四方から蓮の香りがただよう意味

拙政園/緑漪亭(りょくいてい)

「中園」の東北部池畔にある四角亭

「中園」の東北部池畔にある四角亭

藝圃/乳魚亭(にゅうぎょてい)

棟の低い明代様式の稀少な亭。園の東部池畔に建つ

棟の低い明代様式の稀少な亭。園の東部池畔に建つ

獅子林/湖心亭(こしんてい)

池泉中にある六角亭。曲橋で池畔と通ずる

池泉中にある六角亭。曲橋で池畔と通ずる

留園/可亭(かてい)

池泉北部築山上にある遠景の六角亭

池泉北部築山上にある遠景の六角亭

網師園/月到風来亭(げっとうふうらいてい)

池泉西部にあり、珍しく「半亭」形式の亭とされている

池泉西部にあり、珍しく「半亭」形式の亭とされている

滄浪亭/滄浪亭(そうろうてい)

園名と同じ名称の亭で、石柱と見事な屋根を持つ優れた建築

園名と同じ名称の亭で、石柱と見事な屋根を持つ優れた建築

[ 2023年6月25日 ]

蘇州園林に見る「鋪地」の造形/ 蝙蝠紋の紹介

鋪地( ほち) とは、日本庭園で言う敷石のことです。中国では園路や広場等に、非常にデザイン的な美しい鋪地が多く作られており、大きな特色になっています。その代表的なものが「装飾的鋪地」で、各色の小石、瓦、レンガ、陶磁器片、色ガラス片、等を用いた意匠が目を楽しませてくれます。この鋪地の製作技術は、蘇州園林において特に発展し、今日まで引き継がれていますので、各園林に多くの作例を見ることが出来ます。そのデザインは多数ありますが、中でも中国独特の好みから蝙蝠( こうもり)が尊重されていることは、日本ではあまり知られていません。
これを蝙蝠紋と言いますが、何故これが尊重されるかというと、蝙蝠の「蝠」字が、「福」と同じ発音であるために、福が飛んでくるという意味になり、最も縁起の良い「吉祥文様」として人々に認識されているからです。

これについては、吉河会長が『庭研』4 2 5 号に「蘇州園林に見る蝙蝠紋( 下) 吉祥図案としての蝙蝠紋実例/ 鋪地編」として発表されています。そこに挿入されている写真はモノクロなので、ここではその補足を兼ね、6 枚程のカラー写真を見て頂くことにしました。その実例は最も好まれている「五福図鋪地」を5 例紹介し、単独の蝙蝠紋も一例入れておきます。この「五福図」とは、中央円内にデザイン化された「壽」字模様を入れ、その周囲を五匹の蝙蝠で取り囲む形式を言います。独特の意匠と色使いを堪能して頂ければ幸甚です。

なお、この縁起の良い蝙蝠紋は、鋪地に限らず、中国園林独特の園林建築細部にもかなり用いられており、一特色となっています。これについては『庭研』4 2 4 号の「蘇州園林に見る蝙蝠紋( 上) 吉祥図案としての蝙蝠紋実例」に詳しいので、興味のある方は参照されることをお勧めいたします。

拙政園/倚玉軒

拙政園/倚玉軒

拙政園「倚玉軒」西の“五福図”鋪地

北半園/知足軒

北半園/知足軒

北半園「知足軒」前の“五福図”鋪地

瑞光塔園/園路

瑞光塔園/園路

瑞光塔園、園路の“五福図”鋪地

仲雅苑

仲雅苑

仲雅苑の“五福図”鋪地

網師園/井戸

網師園/井戸

網師園、井戸石と蝙蝠鋪地。稀少な作例

拙政園/園路

拙政園/園路

拙政園、中園南部園路の蝙蝠鋪地

[ 2022年10月28日 ]

「園林建築」の世界〔2〕/「楼」と「閣」

蘇州園林内には、多数の園林建築名称があり、大きな特色となっています。それぞれの名称は、固有名詞の最後に付せられ、建物個々の性質を表しており、規模等によって構造には違いも見られます。その中で園林内の主要な建物名称には、楼・閣・館・亭・台・等があります。その内から今回は楼と閣について紹介しましょう。ここでは本会にある膨大な園林建築資料写真中から、その一部をダイジェスト的な記事として、基本的な事実について紹介しておきたいと思います。
まず「楼」は二つの性質を持っていて、園内の主要建築である場合と、住宅部の最も奥(多くは北)に建てられるものとの二種があります。そして大きな特色は、必ず二層建築とされていることです。この内、住宅の楼は完全な主人一家のプライベート空間であり、昔は正妻の他に複数の夫人がありました。そのような女性達は楼上層の部屋に住んでいました。現在蘇州園林でこの住宅部がよく保存されている例としては、藝圃や網師園等があります。このような建物を総称して「女廰」とも言っています。
次に「閣」は、基本として楼よりもかなり小規模の建物とされていることが多く、大部分が二層建築となっているのは楼と同様です。しかし日本と異なっているのは、単層建築でも「閣」と称される場合があることです。「楼」は必ず重層ですが、「閣」はそうとは限らないというのが興味深い点と言えるでしょう。

以下、蘇州園林内にある「楼」と「閣」の写真を、園林別に見て頂きたいと思います。

藝圃の「女廰」

藝圃の「女廰」

留園/冠雲楼

留園/冠雲楼

留園「冠雲楼」。東園の北部にある

拙政園/見山楼

拙政園/見山楼

拙政園「見山楼」。池中にあり、高さをおさえてバランスをとる

拙政園/浮翠閣

拙政園/浮翠閣

拙政園「浮翠閣」。六角の閣で上下の幅が同一の構造

拙政園/留聴閣

拙政園/留聴閣

拙政園「留聴閣」。単層の閣は珍しい

獅子林/暗香疏影楼

獅子林/暗香疏影楼

獅子林「暗香疏影楼」。下は廊になっている

滄浪亭/看山楼

滄浪亭/看山楼

滄浪亭「看山楼」。下が洞窟となった稀少実例

[ 2022年4月25日 ]

「園林建築」の世界/「廊」の重要性

蘇州園林と日本庭園には、その美意識にかなりの違いがあります。その中でも「園林建築」と呼ばれる数々の建物が園林と一体化している点は、中国独自の園林特色です。今回から、その建築風格について略説的に解説を加えることに致しました。ここに紹介する「廊」は、日本で言う「回廊」の事で、建物と建物を結んで続く光景は非常に美しく、空間処理という視点からも優れています。また、雨の日でも廊伝いに園内を歩き楽しむ事ができるという利点もあります。その多くは、曲がりくねって続くのが一特色で、これを「曲廊」といいます。その場合は、高さにも変化を付ける事が多く、景の変化が大いに楽しめるのです。ここでは、多数の実例中から「曲廊」と「爬山廊」の画像を見て頂くことにしました。

蘇州留園の「曲廊」左の鋪地も美しい

蘇州留園の「曲廊」左の鋪地も美しい

蘇州滄浪亭の廊。この形式を「爬山廊( はざんろう) 」という

蘇州滄浪亭の廊。この形式を「爬山廊( はざんろう) 」という

蘇州にある蘭溪道隆禅師嗣法の聖地

「萬歳禅院(双塔)」と「陽山」

 この文は、直接的な園林についての記載ではありませんが、日本文化と密接に関連する事実について記載します。
蘭溪道隆禅師は鎌倉建長寺開山の名僧で、鎌倉時代に純粋な中国宋代の禅を日本に伝えた最初の帰化僧です。
道隆禅師は若い時に蘇州において無明慧性師に入門して修行し、20代の若さで悟りを得て師の禅を嗣ぎました。その修行地が、南宋時代には「平江府」と称していた蘇州の萬歳禅院と、陽山の尊相禅寺でした。後者の陽山は正に嗣法の聖地といえます。
残念ながら寺自体は失われていますが、道隆禅師自身が日本において師の慧性和尚を偲び、陽山で拾った香木を焚いて師の恩に報いている記録があります。
また前者の萬歳禅院は、今も蘇州の中心部にあり、道隆禅師も眺めた北宋時代の見事な2基の磚塔(煉瓦造りの塔/中国の国宝)が有名です。この蘇州にある道隆禅師の遺跡については、『庭研』422号に、吉河会長が詳しく発表しているので参考にして頂ければ幸甚です。
蘭溪道隆禅師も仰いだ萬歳禅院「双塔」

蘭溪道隆禅師も仰いだ萬歳禅院「双塔」

道隆禅師嗣法の聖地、蘇州「陽山」

道隆禅師嗣法の聖地、蘇州「陽山」

[ 2022年1月5日 ]

蘇州で神亀石組の存在実証される

  日本の古庭園は、その多くが中国伝来の蓬萊神仙思想をテーマにしています。その造形として蓬萊山を表現した、亀石組や亀島が作られました。この亀を正しくは鼇(ごう)と言います。それは神話世界の生き物であり、神亀とも言われています。これは巨鼇(きょごう)が蓬萊山等の神山を背負っている姿で、これを「巨鼇負山(きょごうふざん)」といいます。中国ではこれまで、神亀石組は日本独自のもので、中国園林には存在しないと考えられてきましたが、この度吉河会長記述の論文『「巨鼇負山」伝説の問題点及び園林の神亀石組造形』 (庭研419号/会誌『庭研』概要参照)が発表され、蘇州園林中にもそれが実在することが明らかにされました。ここでは蘇州園林を代表する名園中にある、代表的な神亀石組造形を紹介します。

〔留園〕「冠雲峰」の神亀石組

「冠雲峰」は、蘇州園林中でも最大の蓬萊山を表現した太湖石で、高さ6.5mもあります。その台座として用いられているのがこの神亀石組で、東側(写真右手)に明らかな鼇頭を組んでいます。このような台座を、一名「鼇座(ごうざ)」とも言います。この名峰は東園にあって、その中心的な建物である「林泉耆碩之館(りんせんきせきのかん)」の北から眺めるように据えられています。

冠雲峰全景。後部の建物は「冠雲楼」

冠雲峰全景。後部の建物は「冠雲楼」

〔獅子林〕の「蓬萊山」と鼇座

園池の中央部に組まれた小岩島ですが、ここに太湖石の台座としの明確な「巨鼇負山」形式が見られます。現在は西側 (写真左手)池中に鼇頭が見えておりますが、実は現在の池は水位が40㎝近くも高くなっており、鼇座が水中に没しているのです。しかし、今から百年ほど前に撮影されたモノクロ古写真が保存されていて、それには見事な全景が写されていますから、これが明らかな神亀石組であることが分かります。その写真も紹介しておきました。

水没している蓬萊山と鼇座の現状

水没している蓬萊山と鼇座の現状

獅子林の古写真より

獅子林の古写真より

〔拙政園〕の出島にある鼇頭表現

蘇州で最も名高い本園は、明代からの伝統を引き継いだ様式を今に伝えています。園は、東園・中園・西園と三つに区分されており、その中心が中園です。ここは明代庭園の特色でもある庭石「黄石」を用いた石組が目立つのですが、その池畔にある岬のような部分に、黄石によるこの神亀石組があります。これまでに注目した人は無かったようで、どの解説書にも書かれていないようですが、鼇頭であることは明確で、他に例のない貴重な実例と言えるでしょう。

出島の先端にある神亀石組(鼇頭)

出島の先端にある神亀石組(鼇頭)

[ 2021年4月2日 ]


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